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2つの柿の違い、分かりますか?

数学を使ってみよう

問題

先日高校生の数学で、次のような問題がありました。

柿2個,りんご4個,みかん6個の中から6個を取り出す方法は何通りあるか。ただし,取り出されない果物があってもよい。

模範解答

これはある問題集に載っていた問題で、模範解答では以下のように樹形図を使い、全15通りが答えとしています。

せいかい
せいかい

柿を「か」、りんごを「り」、みかんを「み」と表すことにして、樹形図を書くと
\[
\begin{array}{ccccccccccc}
み & – & み & – & み & – & み & – & み & – & み \\
& & & & & & & & & – & り \\
& & & & & & & & & – & か \\
み & – & み & – & み & – & み & – & り & – & り \\
& & & & & & & – & り & – & か \\
& & & & & & & – & か & – & か \\
み & – & み & – & み & – & り & – & り & – & り \\
& & & & & – & り & – & り & – & か \\
& & & & & – & り & – & か & – & か \\
み & – & み & – & り & – & り & – & り & – & り \\
& & & – & り & – & り & – & り & – & か \\
& & & – & り & – & り & – & か & – & か \\
み & – & り & – & り & – & り & – & り & – & か \\
& – & り & – & り & – & り & – & か & – & か \\
り & – & り & – & り & – & り & – & か & – & か
\end{array}
\]
となるから、15通りである。

これ自体は沢山ある演習問題のうちの1問に過ぎないので、学習者の態度としては「へ~なるほど」とでも思いながら次の問題へ行きがちだと思います。しかしながら、よくよく考えてみると少し変な気がしてきたので、それを整理する意味も込めて今回記事にすることにしました。

類題を考えよう

問題提起をするために、先の問題に似ている類題①を作りました。これを考えていきましょう。

ある高校で1年生2人,2年生4人,3年生6人の計12人のうちから6人を選出することになった。6人の選び方は何通りあるか。ただし,選び出されない学年があってもよい。

先の問題に出てくる果物を\(\left\{\begin{array}{lll} 柿 & \rightarrow & 1年生 \\ りんご & \rightarrow & 2年生 \\ みかん & \rightarrow & 3年生 \end{array}\right. \;\;\)と学年に置き換えて考えれば、数値は同じなのでほぼ同じ問題に見えます。よって、さっきと同じ樹形図を書けば全15通りが答えになる……のでしょうか?
\[
\begin{array}{ccccccccccc}
\color{red}{\textbf{③}} & \color{red}{\textbf{-}} & \color{red}{\textbf{③}} & \color{red}{\textbf{-}} & \color{red}{\textbf{③}} & \color{red}{\textbf{-}} & \color{red}{\textbf{③}} & \color{red}{\textbf{-}} & \color{red}{\textbf{③}} & – & ③ \\
& & & & & & & & & – & ② \\
& & & & & & & & & \color{red}{\textbf{-}} & \color{red}{\textbf{①}} \\
③ & – & ③ & – & ③ & – & ③ & – & ② & – & ② \\
& & & & & & & – & ② & – & ① \\
& & & & & & & – & ① & – & ① \\
③ & – & ③ & – & ③ & – & ② & – & ② & – & ② \\
& & & & & – & ② & – & ② & – & ① \\
& & & & & – & ② & – & ① & – & ① \\
③ & – & ③ & – & ② & – & ② & – & ② & – & ② \\
& & & – & ② & – & ② & – & ② & – & ① \\
& & & – & ② & – & ② & – & ① & – & ① \\
③ & – & ② & – & ② & – & ② & – & ② & – & ① \\
& – & ② & – & ② & – & ② & – & ① & – & ① \\
② & – & ② & – & ② & – & ② & – & ① & – & ①
\end{array}
\]

結論から言うと、今回は15通りにはなりません。

分かりやすく説明するために、12人を\(\mbox{A~L}\)の記号で表しましょう:
\[
\overbrace{\mbox{A B}}^{\mbox{1年生}}\overbrace{\mbox{C D E F}}^{\mbox{2年生}}\overbrace{\mbox{G H I J K L}}^{\mbox{3年生}}
\]
例として、樹形図で書いた15通りのうちの一つ:③-③-③-③-③-①をピックアップしてみます。これは3年生5人と1年生1人が選出される場合です。6人いる3年生\(\mbox{G H I J K L}\)は互いに別人なので、このうち5人を選ぶ場合の数は、異なる6人から5人を選び\(\displaystyle \;{}_6\mathrm{C}_5=\frac{6\cdot5\cdot4\cdot3\cdot2}{5\cdot4\cdot3\cdot2\cdot1}=6\mbox{(通り)}\)です。

ただし、異なる\(n\)個から\(k\)個を選ぶ場合の数は、組み合わせ(Combination)の公式:\[
{}_n\mathrm{C}_k=\frac{n!}{k!(n-k)!}=\frac{n\cdot(n-1)\cdot\cdots\cdot(n-k+1)}{k\cdot(k-1)\cdot\cdots\cdot1}
\]を用いるか、地道に樹形図を書きます。

同様にして、2人いる1年生から1人を選ぶ場合の数は\(\displaystyle \; {}_2\mathrm{C}_1=\frac{2}{1}=2\mbox{(通り)}\)です。
3年生を5人選ぶ事象と1年生を1人選ぶ事象は同時に起こりうる独立事象なので、それぞれの場合の数を掛けることで、③-③-③-③-③-①のときの場合の数は\(6\times2=12\mbox{(通り)}\)になります。つまり最初考えていた1通りというのは不正確だったわけです。

同じ考え方を用いれば、異なる高校生12人のうちから6人を選ぶ場合の数、すなわち類題①の答えは\(\displaystyle \; {}_{12}\mathrm{C}_6=\frac{12\cdot11\cdot10\cdot9\cdot8\cdot7}{6\cdot5\cdot4\cdot3\cdot2\cdot1}=924\mbox{(通り)}\)です。

区別する・区別しない

もとの問題類題①の違いは何でしょうか?

求めるべき場合の数が一致しなかった原因は、同じ種類の物や人を区別したか区別しなかったかにあります。もとの問題では柿・りんご・みかんの3種類の果物が出てきましたが、柿であれば2つの柿の個体差(大きいor小さい、色が濃いor薄い、新鮮or痛んでる等)は無視して、あくまでも取り出した各種果物の個数のみに着目していました。一方、類題では1年生・2年生・3年生の3学年が出てきましたが、2人いる1年生はもちろん別人ですから、どの6個人が選び出されたかに着目していました。
すなわち、同じ果物であれば区別せず、同じ学年であれば区別するのです。

初めて場合の数を勉強する学習者にとって、何を区別し何を区別しないのかを判断することが難しいことがあります。人が題材のとき各個人が明らかに区別されることは分かりやすいですし、文字・数字・色等の記号(概念)が区別されないことも分かりやすいです。しかし、色付きの玉・数字の書いてあるカード・果物等の現実に存在しうる物の場合は、「色・数字・果物の種類」のような概念だけに着目すれば個体差は無視されそれぞれを区別されませんが、現実問題として「玉のキズ・カードの折れ・果物の大きさ等」によって確実に個体差は存在し区別可能です。ここが初学者が混乱を起こすポイントだと私は考えています。

問題の作成者が親切であれば、問題文に但し書きとして、「ただし、同じ色の玉は区別できないものとする。」とか「重複を許して・・・・・・~を取り出す」のように、区別できませんよ!というメッセージを残してくれることもあります。
そういった但し書きがない場合は、自分で見極めなくてはなりません。その指針として、下の枠内にこの章のまとめを載せておきます。

場合の数における区別の有無について
  • 題材が人の場合は、それぞれを区別する。
  • 題材が文字や数字の場合は、それぞれ区別しない。
  • 題材が物の場合は、各問題による。

確率の問題では区別する

こんな問題迷うわけない、同じ果物なら区別しないのが当たり前という人もいるかもしれません。そういう人は次の類題②を考えてください。

柿2個,りんご4個,みかん6個の中から6個を取り出す。柿1個とみかん5個が取り出される確率を求めよ。

確率を求めるときは、必ず同じ種類の果物でも区別して計算しないと正しい答えが導けません。

区別しないもとの問題の結果から、すべての場合の数は15通りで、柿1個とみかん5個が取り出される場合の数は1通りだから、求める確率は\(\displaystyle \frac{1}{15}\)だ、としては間違いになります。

この問題では類題①と同様に、いずれの果物も区別する必要があります。すべての場合の数は、異なる12個の果物の中から6個を選び\(\displaystyle \; {}_{12}\mathrm{C}_6=\frac{12\cdot11\cdot10\cdot9\cdot8\cdot7}{6\cdot5\cdot4\cdot3\cdot2\cdot1}=924\mbox{(通り)}\)で、柿1個とみかん5個が取り出される場合の数は\({}_2\mathrm{C}_1\cdot{}_6\mathrm{C}_5=2\cdot6=12\mbox{(通り)}\)だから、求めるべき正しい確率は\(\displaystyle \frac{12}{924}=\frac{1}{77}\)となります。

ただし、中には区別せずとも正しい答えにたどり着ける問題も存在しますが、そんな問題を区別して計算しても同じ答えになります。つまり、確率の場合は区別して計算する方法が潰しの効くやり方といえるのです。

確率における区別の有無について
  • いずれの題材でも、それぞれを区別して計算する。

結論

ごちゃごちゃと書き連ねてきましたが、場合の数の問題のうち物が題材のものでは、区別して計算するか区別しないかは問題によります。個数・色・文字の組み合わせ等概念的なことを聞いてきている場合は区別せず、そのほかの場合は区別して計算してみてください。

結局のところ、どういう問われ方のとき区別するのかは、沢山問題演習を積んで模範解答を確認することで経験値を貯めていくしかないと思います。
つまり、学習者の態度としては「へ~なるほど」とでも思いながら次の問題へ行けば良いのです。

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