菜の花や月は東に日は西に
与謝蕪村です。切れ字「や」の威力は大きく、感動の中心が、菜の花にあることははっきりわかります。一面の菜の花で、画面は黄色一色です。背景を作っているのは、月と太陽です。月は東に在って、今昇ろうとしている満月です。太陽は西に在って今沈もうとしています。夕方です。
また、この句は、柿本人麻呂の
東の野にかぎろひの立つ見えてかへり見すれば月傾きぬ
明け方、東に太陽が昇り、西に満月が沈もうとしているという歌を意識していて、よく対比されます。人麻呂の歌は、360度地平線の見えている雄大な風景です。
ここで鑑賞に必要な知識を整理しましょう。「感動の中心を示す切れ字」「天体は東から出て西に沈む」「太陽と地球と月が一直線上に並ぶとき満月になる(厳密に一直線上になると月食が起きるから普段は微妙にずれている)」また、人麻呂の見ている土地の広さは、地表から2メートルの高さに目があるとして、半径5キロメートルの円になります。これを知るには、地球の半径が6400キロメートルであることと、三平方の定理の知識が必要です。
なお、人麻呂と蕪村の間には1000年の歳月があります。蕪村が生まれてから今日までまだ300年ほどです。